しんまい地質屋の石ころ日記

大学院修士課程の地質系学生がきままに綴る日記です.

岐阜県の地質紹介〜岐阜県の石〜

こんにちは.

ちしつやのたまごです.

 

ブラタモリが人気を博しているおかげで,地元の山や地形の成り立ちに興味を持たれている方も多いのではないでしょうか??

そんなわけで,今回は私の生まれ故郷の岐阜県の地質について紹介をしたいと思います.

岐阜県在住の方,自分たちの足元にどんな岩石が眠っているか,ご存知ですか?

自由研究や岐阜県の地学に興味を持っている専門外の方のためにも,できるだけ簡潔なにまとめてみました.

 

1.岐阜県の代表的な岩石・鉱物・化石

まずは,日本地質学会が定めている岐阜県の石を見てみましょう.「県の石」とは2016年5月10日に公募によって定められた,各県を代表する岩石・鉱物・化石のことです.

 

他県の「県の石」はこちら↓

www.geosociety.jp

 

とありますね .

 

 

チャート」は理科の教科書でお見かけしたことがあるかもしれませんね,遠洋でシリカ(SiO2)を骨格とするプランクトン(放散虫など)の死骸が堆積した際にできる岩石です.

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 「へデン輝石」は鉱物マニアの方であれば「灰鉄輝石」や「hedenbergite」として聞いたことがあるかもしれません.鉄とカルシウムを含むケイ酸塩鉱物です.

https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/ktkbt/~ug7s-ktu/heden2.jpg

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ペルム紀化石群」は化石群と言われていますからイメージしにくいかもしれませんが,「ペルム紀」という地質時代(約2億9,900万年前から約2億5,100万年前)に生息していた生物たちの化石,という意味です.

http://www.ne.jp/asahi/sansiro/takahashi/fu1.jpg

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どういった理由で,これらの要素が岐阜県を代表すると言えるのでしょうか.

 

2.岐阜県の骨格をつくる地質

岐阜県の地質を語る上でもっとも欠かせない要素が,この「美濃丹波帯」という地質です.実は日本の地質は,何種類かの異なった地質に大別され,地域によってさまざまな地質が分布します.下に示したのは,日本全国の地質をおおまかに区分した図(正確には,地帯構造区分図)の一部です(引用元:Morenoほか編,2016).謎の色分けと記号がいろいろ書かれていますが,岐阜県のあたりに注目してください.「Na」は名古屋のことなので,岐阜県はそのすぐ上(北)側です.

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中部日本の基盤岩分布(Taira et al., 2016 in Moreno et al. (eds.),The Geology of Japan, GSL)

岐阜県には水色の「MT:美濃丹波帯」,薄橙の「Ry: 領家帯」,濃灰色の「HG: 飛騨外縁帯」,赤色の「HO: 飛騨帯」が分布していますね.

この4つが,岐阜県の,いわば骨格を形成している訳です.

 

今回この中でもっとも重要な「美濃丹波」についてお話しします.

 

 

3.美濃丹波帯とは

美濃丹波帯のことを理解するためには,「付加体」という専門用語について知る必要があります.

 

日本は現在太平洋プレートやフィリピン海プレートが太平洋側から沈み込んでいますが,過去に遡っても同様に海洋プレートの沈み込み帯の上に位置していたと考えられています.

 

海洋プレートの上部は,遠洋においては中央海嶺で形成された玄武岩の上に,ハワイのような海山(玄武岩),石灰岩(サンゴなどの炭酸カルシウムが由来の岩石),そして先ほどのチャートが堆積します.そして数千万年から一億年程度の長い年月をかけて海溝に到達し,沈み込んで行きます.海溝付近では,陸側から砂や泥などの砕屑物もたらされ,砂岩泥岩などの原料になります.

 

これら岩石が沈み込む過程で,その一部は大陸側に押し付けられ,陸側にはぎとられてくっついて(付加して)しまいます.このようにして付加した地質体のことを「付加体」と言います.

 

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脇田(2000)地質学論集

美濃丹波帯はこのようにして形成された「付加体」から構成され,日本の骨格を形成するひとつの重要なメンバーとなっています.つまり,付加体はチャート,玄武岩石灰岩,泥岩,砂岩などが主要な構成要素となっていることが分かります.

 

名前に「美濃」が含まれているということは,岐阜県の美濃地域と丹波地域でもっともよく分布が見られるためです.岐阜県の美濃地方には美濃帯が分布している,こんなシンプルで良いのでしょうか 笑

 

そしてこの美濃丹波帯の付加体構成岩類はペルム紀ジュラ紀に形成されたことが研究から明らかにされており,石灰岩にはこのようなペルム紀の化石が残されているのです.

 

岐阜県には美濃丹波帯に属する石灰岩の山が複数箇所ありますが,中でも大垣市の金生山は全国的に有名であり,フズリナ三葉虫などの化石の産出が知られています.

 

私も過去に何度か足を運び,上記の化石の他にサンゴやウミユリ,腕足類などの化石を採取したことがあります.金生山は石灰岩を採掘しているので中に入ることができませんが,博物館やその周辺の露頭で化石を観察することが可能です.

 

www2.og-bunka.or.jp

 

また,チャートに関しても岐阜県は全国的に第一級の素晴らしい露頭を観察することができます.特に有名なのは愛知県犬山市岐阜県各務原市との県境を流れる木曽川河床の赤いチャートです.教科書にもたびたび登場するので,チャートは赤いものであると誤認されることもしばしばありますが,含有物によってさまざまな色を呈します.

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(チャートは付加時の変形作用により褶曲した状態でしばしば観察されます).

 

以下のサイトに美濃帯堆積岩コンプレックスに関するより詳しい解説があります.興味のある方はどうぞ↓

https://geo-gifu.org/geoland/gaikan/10_minotai/minotai_table.html

 

 

これで「岐阜県の石」のうち,二つについて納得していただけたのではないでしょうか.

 

では最後の一つ,「へデン輝石」はどのようにしてうまれたのでしょうか. 

 

 

4. スカルン鉱床

実はへデン輝石も,美濃丹波帯と深いかかわりがあります.先ほど,へデン輝石の成分について,鉄とカルシウムとケイ酸塩からなると言いましたが覚えていらっしゃるでしょうか.

 

へデン輝石はスカルン鉱床という,マグマ由来などの熱水と石灰岩が反応して形成される特殊な環境で見出されます.

 

これが何を意味しているか説明します.

まず,マグマ由来の熱水と言いましたが,現在の火山の分布を考えてもわかる通り,火山は日本各地に分布しており,その地下にはマグマと熱水活動(温泉もその一つ)が存在します.一方で石灰岩は美濃丹波帯などの付加体で特徴的に見られ,岐阜県には石灰岩のまとまった分布が複数箇所あると言いました.したがって,美濃丹波帯の分布域では,もともと石灰岩が存在する場所にマグマ由来の熱水が影響を及ぼすことが多々あると考えられます.そのような場合,熱水に含まれる鉄・ケイ酸塩分と,石灰岩に含まれるカルシウム分が反応を起こし,その地域特有の鉱物が出現します.これをスカルン鉱床と言います.

 

美濃地域では,山県市の美山地域などにスカルン鉱床が多く見出され,一時期鉱山開発が進んだ時代がありました.この地域で発見されたへデン輝石は非常に美しく,全国的に知られるようになったため,現在でも鉱物マニアが訪れる場所となっています.

 

 

ちなみに,美濃丹波帯ではないですが,岐阜県が誇るスカルン鉱床として,神岡鉱山のそれがあたります.現在神岡はスーパーカミオカンデの街として有名ですが,その背景には神岡鉱山の採掘の歴史が深く関わっています.

 

 

以上で,3つの「岐阜県の石」についての紹介を終わります.最後まで見ていただいてありがとうございました.この記事に関して何かご意見等ありましたらコメントお待ちしております.

 

引用文献:

Moreno et al. (eds) (2016) The Geology of Japan, Geological Society of London

脇田(2000) 地質学論集